時代に向かない聡明な少年たちのために

前回からまる一年が空いてしまった。そのあいだもニュースレターの使用料月9ドルが何事もなかったかのように、というか何事もなかったからこそ、引き落とされ続けている。何を思ってこのプラットフォームが「Ghost」を標榜しているのか知らないけれど、幽霊会員としてそれなりの額を巻き上げられている者としてはうらめしい。書こうと思っていたこともそれなりにメモしてはいたのだけれどただ億劫で書きませんでした。ふだん私は編集者として原稿を取り立てていますが、生活や仕事のかたわらで形にしている書き手のみなさんはえらいと思います。
この前、若いクリエイターと話していたら「みんな30過ぎると生活が面白くなっちゃうんですよね。猫飼うとか彼女と住むとか。それで作らなくなっちゃうんです」と言っていたんだが、その程度のこと両立できない人は向いてないから、さっさと足洗ったほうがいい😀
— 渋谷慶一郎 / Keiichiro Shibuya (@keiichiroshibuy) October 31, 2025
生活が面白くなっちゃってる。それはある。生活が面白いと、言葉は後回しになる。読んだり書いたりするべき時間に、私はセカストやトレファクのオンラインページを眺めることに身をやつしてきた。服を明確に買いすぎていて、あまり誉められた傾向ではないのだけど、ものを見る目は少しずつ付いてきたように思う。
こと仕事について言えば、今年は手がけている本の8割方を重版することができたし、ベストセラーも出た。「令和人文主義」の一角に数えられたりもしていたが、ともあれ、時流に乗れているといえるかもしれない。けど、みんなは私のことを書籍編集者として認識していると思うけれど、そして無論、全力を投じているつもりではあるけれど、もともとバンドをやっていた自分の主観的には本を作ってるのはあくまでバイト――あるいはライスワークであって、それとは別に自分は何かを作り上げなきゃいけないような気がいつもどこかでしている。もはやそんな実態はどこにもないのに。ただ、いずれにしてもニュースレターもそのうちのひとつではあるから、書かないことに後ろ髪を引かれる気持ちだけはあった。

ひとつだけ書き残しておきたいこととして、今年はブライアン・ウィルソンが亡くなった。訃報のあと、さまざまな文章に触れた中で、米国の音楽批評家であるテッド・ジョイアが書いた追悼文が特に胸を打たれた。ブライアン・ウィルソンと同郷のテッド・ジョイアは、彼が自分にとってどんな存在だったかを長年書きあぐねている。実家から数百ヤードのところで生まれ育ち、同じハンバーガースタンドで食事をしたことや同じビーチに行ったことなど、具体的で物理的な繋がりを挙げることはできるし、そういう話を人々は面白がる。
だけど、ブライアンが自分に与えた本当の影響は「ひそやかなもの」だったと書いている。それは人知れず、心の奥底で、空想の中で、そして何よりも自分の部屋の中で起きたものだった。ブライアンがどういうわけだか、数々のヒット曲へと変えてしまった、何か。
私はその何かをたしかに知っている。『ひとり』というディスクガイドについて過去に紹介したけれど、パーソナルな部分に語りかけてくるもの……いや、そもそもそれ以前に「パーソナル」の輪郭を形作ってくれたのが、ブライアン・ウィルソンや、その他のいくつかの音楽なのであった。
「I Just Wasn't Made For These Times」という曲は、「僕はこういう時代に向いていなかったんだと思う」と歌う。自分の意見を言える場所を探し続けている。みんなは僕に頭が良いと言う。けど、何の役にも立たない。時々とても悲しい気持ちになる――「彼の音楽は、自分が奇妙な子供、風変わりな子供、誰にも理解されない少年であるという感覚に、何度も立ち返るのです」。ビートルズを含めた他の連中も彼の独創を真似したいと願ったが、スタジオや彼の部屋で彼が何をしているのか、到底理解できなかった。やがて弱点は強みへと変わっていった。それでも決して馴染むことはできないでしょう。みんなと同じにはなれない。それがブライアンの歌の語り手のように自分をとても悲しくさせることもあった。でも、自分には自分のやりたいことがあった。それを育てていこうと決心した。それが自分をどこへ連れて行ってくれるのか、見てみたかった――。
そのとおりだと思う。ブライアン・ウィルソンは時代のただなかにいたけれど、時代に向いているわけではなかった。その率直な魂に触れて、自分が何者かもわからないまま、彼の音楽の反響に身を震わせて、自分もティーンエイジシンフォニーを響かせたいと思った。そして私は今の私のようになったのだ。だから(使える道具はなんでも使うけれど、)令和人文主義であるかどうかなど本当はどうでもいいことです。時代にそぐわないという感覚をまず大切にする。このニュースレターもそのための部屋のひとつであればいい。108ドルの一年分の沈黙も含めて。
来年はこれまでと違う仕事への挑戦が始まる一年になりそうですが、それについてはまた追って。良い年をお迎えください。
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