#3 『STATUS AND CULTURE』出ました
『STATUS AND CULTURE』が発売されました。
これがどういう本か、ひとことではいわく言い難い。こうして一冊にまとめてなおも捉えきれていないんじゃないかという感触がある。のだけれど、自分の人生に深く関係があることはわかる。そういう本を担当できたことは編集者としてもひと区切りついた感があった。
とりあえずの説明としては、本書は「なぜ文化(カルチャー)は時間の変化とともに移り変わるのか」という謎に迫っている。トレンドは一部の過激な行動から始まり、反発を生むが、徐々に許容され、一般化する。このサイクルには「ステイタス」という、「社会における各個人の重要度を示す見えない指標」を追い求めるプロセスがある。
前著の『AMETORA』も含めた本書の背景、そしておおまかな議論について、カルチャーを知悉する先輩、動物豆知識botさんに執筆いただいた。見事な紹介になっているので、ぜひご一読いただきたい。
我々(ここでいう「我々」は人類一般ではなく、このニュースレターを購読してくれるような近しい人々という、そのままの意味で)はカルチャー(これも文化一般というよりかは、ある種の「カルチャー」)についておしゃべりすることが大好きだ。「あのバンド、インディ時代は好きだったんだけど」「レトロ風喫茶店、古着で言ったらアニメT、90'sロックバンドT。創作餃子屋がハイプ」「谷根千あたりに出没するニューバランスを履いてる系ね」「『猫村さん』が面陳されていて相対性理論が流れてるスパイスカレー屋ですか」云々。何が「イン」で何が「アウト」かをめぐってやむことのない考察を繰り広げることができるはずだ。いやそんな話はしないという向きでも、数ある選択肢のなかからひとつを選び、そのことを誰かに伝える限りは決して無縁ではないのだ。本書はこうした議論に見通しを与える重要な諸概念をいくつも提供してくれる。一方で、こんなことを書いている自分にどこかうしろめたさを覚えるように、それはあけすけで、問題を含んだ営みでもある。ステイタスの力学を省み、その弊害を減らしながら、創造的で多様性のある文化のありかたを模索する一冊でもある。
気軽に買える値段ではないと思う(とはいえユニクロのシャツ1枚よりかは有意義な使い道だと思うのだが)。あらゆる費用の高騰とスケールの原理からどうしようもなくこの価格になった。だからなるべくよく検討してもらえるように、パッケージに説明を付したつもりだ。装丁は慶應義塾大学出版の美学シリーズと『流行通信』を手掛けられていた服部一成さんに「みすず書房とマガジンハウスの両方が同時にある本」というイメージでオーダーした。結果、長く読まれる基本書にふさわしいエターナルな佇まいに仕上がったと思う。我々(先ほどと同様の意味)が書棚に加えるこの手の翻訳単行本は、時間をかけて初版分を売り切る結果、品切重版未定、マーケットプレイスで定価以上〜数倍のプレ値という展開になりがちである(最近だと『ポストパンク・ジェネレーション』の中古価格や復刊要望が取り沙汰されている)。そうなってほしいわけではないが(嘘。先達のようになるのがカッコいいと思っている節は数%ある)、ありうる展開だとはぶっちゃけ思う。だからいやらしいけれど、持っておいたほうがいいよ〜とこっそり言う。
いや、それもまた本心ではなく、図書館で借りるなり、回し読みするなりなんなりどんな形であれ、読んでみてほしい。改めて書くけれど、問題含みでも、カルチャーについておしゃべりすることが好きだ。なぜおしゃべりすることが好きなのか。こんなことを仕事にまでしてしまったのはどうしてだろうか。それを通じてしか自分の輪郭をはっきりさせられない星の下に生まれてしまったから仕方がないだろう。いずれにしても、言うなればいつも遊んでるゲームに強力な新カードが登場したのだ。それをデッキに入れてみないわけがないじゃないか。
日記
7/24 『 STATUS AND CULTURE』の見本を受け取った。
7/25 水泳教室で、水着の前後ろを普段と逆にしてみたらたぶんこっちが正解の向きだったとわかった。
7/26 スリランカカレーを食べる。上司に『ボーイフレンド』を最近観てますという話をする。
7/27 フジロックの配信をチラチラ見て、日用品の買い出しに行く。暑さを感じる。今後の人生、やり過ごすことしかできないのだろうかと考える。
7/28 ばか暑いけど奮起して外出、自転車で高円寺へ。ファミレスギャザリングに参加する。「いい編集者はセンスのある柄シャツを着ているものだ」という格言を業界の大先輩にいただいた。
7/29 このニュースレターは「ghost」というプラットフォームを使っているのだが、いままではお試し期間で、実は月11ドルの使用料が発生することを知った。道理で高性能だと思った。元取れるくらいやれるか?
7/30 原稿が届き、次の大著の作業がキックオフしてしまった。
7/31 「ダンスフロアのぺぺ・トルメント・アスカラール」へ。
8/1 『呪術廻戦』最新刊を読み、「ザ・センターマン」とか「ジャカジャカジャンケン」とか、作者は同じものを見てきた同年代なんだということを強く感じた。そして、こんなに活躍していてすごいよと思う。土俵が違っても思う。
8/3 毎年8月3日に着る用のTシャツを持っていて、二年目のこの日も着た。暇を訴えていたら編集者の竹田純さんが声をかけてくれて、カレーを食べた。
雑談とか、カルチャーの話とか、うめき声をあげたりするDiscordサーバーをやっています。素直な気持ちとしては、素性を知らない同士でも気にせず喋り合うような、昔のインターネットみたいな感じでやれたらと思っているけど、それって実はハードルが高いのかもしれないなと周りの話を聞いたりして思った。その火を飛び越して来い!(嘘。気軽に参加してもらえたらうれしい)