#2「2000年代Jポップ・ベスト・ソングス100」に載ってた・載らなかった何曲かについて思い出すこと

今月の『ミュージックマガジン』が「2000年代Jポップ・ベスト・ソングス100」という大変楽しそうな特集で、タワレコで見かけてさっそく購入した。ゼロ年代とは私にとっては10代をまるまる伴走したディケイドであり、純情な季節を相模原近郊の歴史をもたないニュータウンで過ごすことは、野蛮であり、愛であった。

表紙からてっきりキリンジのあの曲が1位なのだと早合点していたがそうではなかった。実際の1位は私も1位だと思う(万能初歩さんのレビューも素晴らしい)。あの曲はメロディのポリリズム(言っちゃった)もさることながら、サビの、メロディとは裏腹に下降しそうで下降しないベースラインがスリリングで感動的だと思うんですけど、どうですか?

自分が投票できる立場だったなら2位はTOKIO「AMBITIOUS JAPAN!」に入れただろうか。東海道新幹線品川駅の開業を記念したタイアップソングだが、愛知県で行われた愛・地球博との関係もあり長期のキャンペーンが展開された。筒美京平・なかにし礼・船山基紀という黄金の三角形による昭和歌謡曲としての完璧なフォルムを誇り、鼻声で歌われる「突き進めば希望(のぞみ)はかなう」というラインに大志を抱く少年だった国の去りゆく輝きが集約されている。「ニッポンを応援」が言われ始めたのがこの頃からだったはずで(「栄光の架橋」はさすがに選んでる人はいなかった)、ナショナリスティックなスローガンに対してまだスタンスが固まっていなかった人生一周目の自分は「そんなもんか」と思っていた。本邦のその後の文化的・政治的展開からして呪わしくもあるからこそ、象徴的な一曲として挙げたい。音楽は常に永遠だけど、いずれにしても過去の話である。

ラインナップのほか選曲した各人のリスト・選評も楽しく、戦中派のみなさんはぜひ購入して確かめてほしい。そして、ランクインしなかった曲のことも思い出されたので、それについて二、三、書いてみたいと思う。本企画は「2000〜2009年にリリースされ、オリコンランキング50位以内に入った日本制作のシングルA面曲が対象」となっており、それに倣っている。まずこのリストアップが大変な作業だったろう。それを眺めたい。

・Mr.Children「youthful days」

TOP100にスピッツの楽曲は入っていたけどミスチルの曲は入っていなかった。なぜミスチルは聴かれなくなったのだろう? ゼロ年代前半の桜井和寿は、離婚と再婚を経て、小脳梗塞の療養から復帰し、環境保護活動に低金利で融資する非営利団体「ap bank」を設立し、ホワイトバンド(知ってますか? 私も買った)を身につけ、エコな感じだった。近田春夫『考えるヒット』で「やりすぎのドラムがすごい」と書かれていた(手元にないのでうろ覚えですが)この曲以降の爽快でキャッチーなシングル曲/アルバムリード曲に対して、いい曲だな〜と思う一方、どこか「若々しい自分のパロディ」を見るような後ろめたさを嗅ぎ取っている気がしないでもない。本当に若かったら「若々しい日々」なんて言わない。ただ歳をとった今の自分には「若々しい自分のパロディ」が似つかわしい瞬間(いつもより身体が若干軽い日とか)があり、そういうときに聴き返している。

・SINGER SONGER「初花凛々」

オリコン最高3位(そんな上位だったのか)。この頃のくるりは「赤い電車」、リップスライムとのコラボ、そしてこのSINGER SONGERでMステに出るようになった。だから高校のクラスメイトは「東京」でも「ばらの花」でもなく「「赤い電車」のバンドだよね」と言ってた(京急が走る川崎市の高校だったせいかもしれない)。今回聴き返して、ギターやハーモニーのリバースしてる感じ、透き通るようなコード、跳ねたリズムなど羅針盤の「永遠のうた」が下敷きになっているのではと思い至った。つまりお茶の間まで最もひろく届いた「うたもの」だったのではないか、と。

・レミオロメン「南風」

小林武史ワークスということでミスチルと被るのだが、レミオロメンも中学生の頃によく聴いていた。私がレミオロメンについて思っていたのはある種の困難だった。レミオロメンの「レ」はレディオヘッドの「レ」で(メンバー3人が好きなものから頭文字を持ち寄った)、叙情的な詩世界を歌っていた彼らだったが、「粉雪」を収録した、つまり商業的に大きく勝負を懸けた3枚目のアルバムが発売される前日に妻子持ちであることを週刊誌に報道された。そしてそのアルバムで藤巻亮太は能天気なディスコサウンドに乗って「おバカもOK それもOK ♪」(明日に架かる橋)と歌っていた。――「南風」はインディ(ーズ)的な作家性と J-POP性がまだ折り合っていた幸福な時期の楽曲。


日記

7/16 昼休み、カレーを求めて歩き、定休日で閉まった扉を3軒見送っているうちに隣駅まで着いて、十吉樓という店で坦々麺を食べた。カレーに恵まれない街は働きにくい。

7/17 評判を教えてもらい、『バトラー入門』を第一章まで読む。

7/18 自転車のパンク修理を待ちながら冷やし中華を食べた。京アニ放火事件から5年経ったというニュースがテレビで流れている。

7/19 ふだん使わない駅の使ったことのない駐輪場に停める。

7/20 紀伊国屋書店でのイベントに登壇。ふだん運営側に回るのが普通だからちやほやされるのがおもばゆい。早い時間に終わったから打ち上げはしなかった。高校の卒業式で制服のボタンをぜんぶむしられて、なのに花束抱えてポツンと帰ったことを思い出した。楽しかった日の終わりってそんな感じなときがある。

7/21 友人が住んでるシェアハウスを訪ねて千葉へ。ついでに行ってみたかった古着屋「ANDANTE ANDANTE」を覗く。逸品ばかりが並ぶお店で、この夏の "答え" と言えるショーツを2着購入。友人宅は実にいい場所で、気持ちが盛り上がって何年かぶりに友達の家に泊まらせてもらった。

7/22 千葉から出社する。朝8時の時点でクライマックスみたいな太陽のまぶしさ。昼休憩で外に出たとき、サウンドシステムの前に立ってるのか?と思うくらい全身がビリビリした。夜に涼しくなったが、毎日ゲリラ豪雨を降らすところから始めたほうがいい。


「2024年過大評価リスト」をやりたい

「GQの1995年過大評価リスト」という投稿が先月海外でバズっていたらしく、それにかこつけて「Dirt」というニュースレターマガジン(前回触れた「ニューヨーカー」ライターのカイル・チャイカが創刊)で「2024年の過大評価リスト」という記事が出ていた。エディターたちが「カーダシアン家の全員」とか「Y2Kの美学」とかいろいろ挙げている。楽しそうなのでパクって年末にでもやりたい。ここでみなさんに募集したり、声をかけたりするかもしれない。

Dirt’s 2024 Overrated List
News take-havers can use

みんなで雑談とかするDiscordサーバーはこちら。先日おこなわれた中年の危機をめぐるトークイベントで、クライシスを乗り切るには「サードプレイスを運営するとよいのではないか」(本屋とか)という話が出て、それを聞きながら、実際の場所もいいけど、オンラインのサーバーなりマガジンでも似たような効果あるかもと思った。思っていたより多くの人がログインしてくれて、うれしいです。

Discordサーバー「C. J.」に参加しよう!
DiscordでC. J.コミュニティをチェック! 41人のメンバーと交流し、無料の音声・テキストチャットを楽しみましょう。

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#5 「LIFE 再現ライブ」と『人生後半の戦略書』

8/31 小沢健二の「LIFE 再現ライブ」を観に武道館へ。 地元に「バカウケ先輩」という人がいて、今は東北のほうで子育てをしているのだけど、昔、『LIFE』を繰り返し聴きすぎてCDが二つに割れたと言っていた。私は、iPod世代だからCDが割れてしまったことはないのだけど(というか「テープが擦り切れる」ならよく言うが、CDが割れたというのはバカウケ先輩の例しか知らない)、『LIFE』は人生における再生回数の五指には入ると思う。そもそもなぜ聴きはじめたかといえば入学する高校のウィキペディアを見たら卒業生一覧にいたから。「川崎ノーザンソウル」と彼が呼ぶ(『ルポ川崎』参照)あの街で生まれ育ったことの空虚さを自分の境遇に重ねていた。結婚しても「それはちょっと」が人生のテーマ曲だ。30年前から聴いてる先達には及ばないけれど、自分なりに思い入れを抱いているつもりということ。 再現ライブといっても前半は『LIFE』以外の曲から。出囃子は「流星ビバップ」のインストをバックに大合唱。私も歌詞をすべて覚えている。「天使たちのシーン」や「大人になれば」(この曲だけピアノに渋谷毅!)なども披露されて、あり

#4 『ひとり』というディスクガイド

『ひとり』というディスクガイドを薦めていただいて読んだ。読んだというかまずはひと通り眺めて、目についたレコードを探してみたりした。 本書は90年代におけるリスニング文化に大きな影響を残したとされる『モンド・ミュージック』の編著者、ガジェット4が1999年に刊行したディスクガイドの新装版として、四半世紀ぶりに送り出された。「クラブで踊るためでもなければ、ライヴハウスで騒ぐためでもない、ひとりの雰囲気を持つ音楽」が集められているが、いかにも静謐なフォークミュージックもあれば騒々しいオルタナティヴロックもあるし、ソロもあればバンドもあり、知る人ぞ知るレコードもあれば、ゴールドディスク級の有名作もある。だから、作品の雰囲気や知名度がまったく関係ないということもないけれど、どちらかといえば聴取する側の「ありかた」としての「ひとり」を問いなおすような一冊になっている。選盤の紹介文もバイオグラフィなどのデータ的なものではなく、個々の評者がどう感じているかに重心を置いているように見える。 カンパニー社の工藤遥さんによる解説に書かれていたが、現代は「みんなにとっては重要かもしれない再生回数だの影響力

#3 『STATUS AND CULTURE』出ました

『STATUS AND CULTURE』が発売されました。 これがどういう本か、ひとことではいわく言い難い。こうして一冊にまとめてなおも捉えきれていないんじゃないかという感触がある。のだけれど、自分の人生に深く関係があることはわかる。そういう本を担当できたことは編集者としてもひと区切りついた感があった。 とりあえずの説明としては、本書は「なぜ文化(カルチャー)は時間の変化とともに移り変わるのか」という謎に迫っている。トレンドは一部の過激な行動から始まり、反発を生むが、徐々に許容され、一般化する。このサイクルには「ステイタス」という、「社会における各個人の重要度を示す見えない指標」を追い求めるプロセスがある。 前著の『AMETORA』も含めた本書の背景、そしておおまかな議論について、カルチャーを知悉する先輩、動物豆知識botさんに執筆いただいた。見事な紹介になっているので、ぜひご一読いただきたい。 カルチャー愛好家のための新たな重要文献|単行本|動物豆知識bot|webちくま私たちのセンスやアイデンティティの起源から、流行の絶え間ないサイクルまで――〈文化という謎〉を解き明かすた